琉球海溝へもぐれ
今から15年前の1977年春、スイスへ旅行した。街にも村にも、花々が咲き乱れて実に鮮やかだ。ジュネーブ大学構内の、大ぶりの白木蓮が真っ盛りで、そのすがすがしい白い色が、今でも瞼に焼きついている。
スイスは山国で、氷河で削られた川は谷が深い。したがって、支流から本流へ注ぐところは、落差が大きく、多くは自然のダムのような滝になっている。それを利用した発電が発達し、工場や鉄道の大部分を賄っている。石油や石炭を使わないので、空気が汚れず、清澄である。「どこへ行っても、風景が絵の様に美しい」といわれるのも、頷ける。
スイスは地球温暖化防止に貢献するために、化石燃料を使わないのではない。地下資源の石炭や石油がないからである。しかし、結果的には温暖化防止に貢献していると言える。
赤土に象徴される、沖縄の自然環境破壊の原因のひとつは、沖縄の生態系に合わない、ヤマト風の技術による開発にある。
海洋温度差発電の研究者、佐賀大学教授・上原春男さんによると、発電に使った後の深海の水は栄養分が多く、魚・貝・藻の養殖に適する。各家庭の冷房。土地を冷やした野菜づくり。地球環境に貢献するために、炭酸ガスを入れて海にもどすことも出来るとのことである。
亜熱帯の太陽にめぐまれ、琉球海溝という深海をひかえている、沖縄のエネルギー源として、海洋温度差発電の技術は、大いに追求されるべきではないだろうか。
地球の環境悪化を防止するには、地球の生態系にマッチした、新たな開発技術や生活文化の創造が不可欠であるが、それは地域から始められねばならない。
沖縄の若い方々が、琉球海溝を研究し、沖縄の自然や生態系に適合した、エネルギーの開発技術を創り出してほしいものだ。「若人よ、琉球海溝へ潜れ」
沖縄タイムス 唐獅子 1992年6月5日