2012年8月26日日曜日

1992.2.28 沖縄タイムス唐獅子「名護緋ざくら」



名護緋ざくら

 ナングスクの桜が、全国の「さくら名所100選」にえらばれ「緋ざくら名護」と歯切れのよい呼び方も考えられるが、ちょっと派手すぎる。やはり、ナゴヒできって「ナゴヒ、ザクラ」と呼んだ方が、新しいサクラ誕生のイメージがあってよい。
 吉野の桜の見頃は四月上旬から中旬。黄褐色の山々は、一挙に、山ざくらに覆われ「奥の千本」に至るまで、全山、見渡す限り、薄桃色に輝く。数日たつとまさに花吹雪。いさぎよく散り、豪華絢爛。やがて枝々の新芽がふくらみ、五月晴れの頃には、緑深い「葉ざくら」となる。
 「名護緋ざくら」のさかりは一月下旬から二月上旬。快晴の日もあるが、曇天、小雨の日も多い。気温は摂氏一五度前後。雪の本土にくらべれば、まさに快適。花は下を向いて、ひっそりと、しおらしく咲いてゆく。
「おい!あの、あざやかな緑は何だ?」
 ヤマトゥの友人が、びっくりしたように、指さして聞く。
「あれはヘゴの新芽だ。名護の宝だよ」
 周辺の緑に映えて、濃淡さまざまなピンクが、ナングスクから名護岳一帯にひろがる。ソーミナー(目白)の大群が、ツオーイ、ツオーイと啼きかわし、谷から谷へと、桜の蜜をもとめて移動する。「名護緋ざくら」の満開である。晴天の日は勿論よいが、曇天の下の、落ちついたピンクにも、しみじみとした、得も言われぬ風情があり、中々よい。
 花もちは長く、ぽつりぽつりと散り、新芽は、いつしか、まわりの緑に溶けこんでゆく。私はこの、ゆっくりとしたテンポが好きだ。
 「名護緋ざくら」は名護の桜。名護の環境の中でこそいきる。それにしても、ナングスクのうしろの、鬼の角のような屋根かざり(中央公園の施設)が目立ちすぎる。せめてその両がわに、桜など大木を育てて、緑の環境に調和させる工夫が欲しい。

沖縄タイムス 唐獅子 1992年2月28日